閉園間際の恋人たち




大和とも蓮君ともずっと一緒にいたい。
どちらも失いたくないのだ。

大和を育てていく未来では、今後、嫌でも父親に触れなければならない状況が出てくるかもしれない。
笹森さんに会う必要だってあるかもしれない。
そのとき、蓮君が事情を知っているなら、相談したり、笹森さんとの面会に同席してもらうことも可能だろう。
そうしたら、もう私が笹森さんと二人きりで会わなくて済むのだ。
蓮君に嘘をつくことも、誤魔化すことも必要ない。
少なくとも、今回みたいに笹森さんのことで蓮君を傷付ける恐れはなくなる。

残る不安は……、蓮君が、私の話を聞いてくれるかどうか、受け入れてくれるかどうかだ。
この前は冷静に蓮君の反応を見る余裕はなかったけれど、今落ち着いて考えると、もしかしたら蓮君は何か誤解してるかもしれないから。
例えば、私が大和を育てているのは、大和が笹森さんの子供だから(・・・)……とか。
まさかとは思うけど、私が笹森さんに未練を持っている……とか。


私は自分の想像にぞっとした。
そんなのあり得ないからだ。
だけどもし自分が逆の立場なら?
きっと、考えたくもないけどそう考えてしまって不安になるだろう。
悪い方へ悪い方へ考えては、まるでそれが正しい真実のごとく鮮明に焼き付いてしまう。
私は蓮君に、そんな苦しい思いをさせているのだろうか?
だとしたら、すぐにでもその誤解を解かなくては。
そして私が好きなのは蓮君だけで、笹森さんのことを話さなかった理由についても、私がどういう気持ちでいたのかも、全部聞いてもらいたい。
一日でも早く。

けれど、蓮君が本当に今仕事で忙しいのだとしたらこちらから連絡するのは気も引ける。
そうこうしてるうちに時間ばかりが進んで焦りを覚えた私は、仕事関係の懇親会の予定日が、以前教えてもらっていた蓮君のオフ日と重なっていることに気が付いた。
この日、大和を実家に預けて懇親会帰りに迎えに行くつもりだったが、そのまま実家に泊まってきてもらうことにした。
ゆっくりと、時間を気にせず蓮君と話をするためだ。
まだ電話だったら、忙しくてもオフの夜に話すくらいはできるだろうと期待していた。
大和もお泊りは喜んでくれたし、懇親会がお開きになると、私は心が急くのを止められず、いそいそと帰路についたのだった。



けれど、マンションの入口で、和倉さんの後ろ姿を見つけたのである。


「―――あれ?和倉さん?何してるんですか?もしかしてキーを忘れたんですか?」

振り向いた和倉さんはスーツ姿だったけどネクタイを外しており、いつも持っているビジネスバッグも携えていなかった。


「いや……、そういうわけじゃないんだけど……」

それ以外にオートロックのインターホンパネルの前で立ち往生する理由があるのだろうか。
疑問に首をかしげていると、インターホンから聞き覚えのある声で呼びかけられたのだった。


《――――琴子?》











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