閉園間際の恋人たち




「おはようございます、和倉さん」
わくら(・・・)さん、おはようございます。あのね、ぼくね、ファンディーといっぱい写真撮ったんだ」
「そうか、それはよかったね。大和君、ファンディーにずっと会いたがってたもんね」

出勤時間が近かったので、平日はほとんど毎朝顔を合わせることもあり、私達は互いのちょっとした日常を覗いたり覗かれたりで、当然、大和のファンディー好きも和倉さんには伝わっている。
そしてファンディーに会いに行くということも、連休前に大和が楽し気に報告していたのだ。


「うん!ファンディーに会えて、すっごく嬉しかった!でもね、ぼく、ファンディーとおなじくらい好きな人ができたんだ!」
「へえ、そうなのかい?もしかして、フラッフィーかな?」

和倉さんがスッと歩幅を小さくしてくれる。
大和は「フラッフィーも好きだけど、もっと好きな人だよ」と答えながら、私に両手を差し出してきた。

「琴ちゃん、スマホの写真見せて?」
「いいけど、どの写真?」
「王子様のお兄さん!」
「ああ……」

この数日で、大和の中で()は騎士から王子様にランクアップされていた。
言われた通り、バックヤードで撮った騎士のダンサーとの写真を開き大和に渡すと、大和はいそいそと和倉さんに見せた。

「ほら、この人!かっこいいでしょ?」
「どれどれ……あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、これって、バックヤードだよね?」

大和の前で軽く屈んでいた和倉さんが、私を見上げてきた。

「そうなんです。実はちょっとアクシデントがありまして……」

パレード中に起こった事情を簡単に説明すると、なぜだか和倉さんからは「じゃあ、あの親子連れは琴子ちゃんと大和君だったのか」と納得するような頷きが返ってきたのである。

「え?それはどういう……」
「おっと、今は時間がないから、詳しい事は夜でもいいかな?前々から大和君のお誕生日祝いもしようって言ってたし、ちょうどいい、今夜食事でもどう?」

これには私が受け答えするよりも早く、大和がスマホを持ったまま飛び跳ねる。

「やったあ!またお誕生日パーティー?」
「そうだよ。琴子ちゃん、仕事は何時まで?」
「6時までですけど…」
「だったら6時半に駅で。ああ、遅くなっても構わないから、急がないでいいよ?」
「あの、でも…」
「何か用事があった?」
「いえ、それは…」

和倉さんと食事に行くと必ずご馳走してくださるので、最近は食事のお誘い自体が申し訳なくも感じてしまう。
でも大和の誕生日祝いについては確かに以前から何度も話題にはあがっていて、大和本人も楽しみにしていたところがあった。

「琴ちゃん、ぼく、わくらさんとご飯食べたい!」

案の定、すっかりその気になってしまっている大和。
さすがにここまで喜ばれたら仕方ない。


「……すみません、和倉さん。お言葉に甘えさせていただきます」

有難くお誘いを受けることにしたものの、苦笑いが漏れ出すのは抑えられなかった。











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