閉園間際の恋人たち




年齢は私よりも5歳ほど上で、職業は弁護士。
大学在学中に司法試験に受かったそうだから、相当優秀なのだろう。
それだけでなく、まるでモデルのように長身でスタイルがよくて、立っているだけで絵になるような、とても人目を惹く人物である。
けれど、そんな印象をポッキリと折ってしまうほどに、彼はとても気さくで人当たりのいい、気取らない親切な人だった。

引っ越し当日、目的階数によって異なるエレベーターに乗るのだと知っていたにもかかわらず間違えてしまった私を見かけ、丁寧に声をかけてくださったのだ。
その時はちょうどお仕事に向かう途中だったようだが、その日の夕方、今度は仕事帰りの和倉さんをマンションのエントランスで見かけ、朝のお礼を伝えたところ、近所を案内がてら、引っ越し祝いにと夕食をご馳走してくださったのだ。
和倉さんは大和への接し方もとても自然で、もともと人懐こい大和はすぐに和倉さんと仲良しになってしまった。
仕事で小さなお子さんと接する機会も多いからねと笑う和倉さんは、大和にも負けず劣らずの人懐こさがあるように感じた。
初対面の私を警戒させることなく、かといって入り込み過ぎもしない、程よい距離感を保ちつつも、私達は徐々に親しくなっていった。

といっても、それはあくまで ”ご近所さん” 的な親しさだった。
和倉さんは独身だったけれど私に対してそういう感情は一切ないようだったし、私も、大和のことで精一杯で、いくら素敵な人だと思っても、和倉さんに特別な好意を抱くような余裕はなかった。

……というよりも、それ以前に、私は、もう、本気で恋愛するつもりはなかったから。
昔に恋愛で負ってしまた心の傷が、今も深く刻まれていたのだ。
だから大和のことは、もう誰とも恋愛するつもりがない私にとっては、条件的にはとてもよかったのだと思う。
幼い子供を育てながら恋愛に時間を割けるほど私は器用ではなかったから。


だけど、子育て最中に一人であれもこれもと抱え込んでしまうのは危険で、何かの際には頼れる人や場所が必要であることを、仕事柄私はよく知っている。
それはちょっとした困りごとの相談や、愚痴の吐き出し口でもいい。
とにかく何かしらの受け皿があれば、人はまた頑張れることが多いはずだ。
そして私にとってそういう存在の一人が、この和倉さんだった。

大和と私が実の親子でないことも、大和のお決まりの訂正のおかげで初対面で知られてしまい、『弁護士の知り合いがいると便利だよ』と冗談めかして言われた時は、正直、嬉しかった。











< 22 / 340 >

この作品をシェア

pagetop