閉園間際の恋人たち




大和君を遮ってまで訊いてくるなんて、琴子さんの動揺がありありと感じられる。
俺は二人ともに、誠実にしっかり気持ちを示さなければと思った。
だが俺の説明を待ちきれず、琴子さんは詰問を強めてきたのだ。

「蓮君、答えて。どうしてFANDAKを辞めることにしたの?」
「FANDAKを辞めるというよりも、俺は、ダンス自体を辞めることにしたんです」
「だからどうして?どうしてダンスを辞めちゃうの?」

語調を繕うこともしない琴子さんは、大和君の存在を忘れているわけではないのだろうけど、いつも大和君の前で纏っている余裕はどこにも見当たらなかった。

「琴子さん、辞めちゃう(・・・・・)んじゃありませんよ、辞めることにした(・・・・・・・・)んです」
「そんなの同じじゃない。だって、あんなにダンスが好きだって言ってたのに。素人の私にでもわかるくらいにダンスが上手くて、ファンの人もたくさんいて、FANDAKのお客さんもみんなが蓮君に声援を送ってて、キャラクター達にだって負けないくらい人気のあるのに、どうして?」

驚かれるだろうなとは予想していたものの、ここまで否定的な反応をされるとは考えていなかった。
ひょっとしたら、琴子さんは、俺の進退の理由が自分にあると考えているのかもしれない。
聡くて思慮深い、優しい人だから。
琴子さんが観覧していたパレードの出来事を思い返せば、琴子さんがそんな誤解してもおかしくないだろう。
でも俺が決断した理由は、それだけではないのだ。


「琴子さん、聞いてください。……大和君、これからちょっと難しいお話するけど、わからなかったらあとで大和君にわかりやすいように説明するから、ちょっとの間、黙って聞いててくれるかな?」

ぎこちなく俺と琴子さんの顔をちらちら見ていた大和君は「うん、わかったよ!」と胸を張って頷いてくれた。

「ありがとう、大和君」

俺は大和君に微笑みかけてから、琴子さん一人を見つめて。

「……琴子さん。たぶん琴子さんは、俺のファンのせいで琴子さんがパレードでケガをしたこととか、俺のファンの女の子達が琴子さんや大和君に対して何かアクションを起こしそうだったから、それを案じた俺が琴子さんのためにFANDAKを辞めることにした……そう思ってるんじゃありませんか?」

琴子さんは「え……?」とイエス、ノーを明かさなかったけれど、その目は雄弁に認めていた。

「やっぱり……」
「だってそれが普通でしょう?もしかしたら私の知らないところで、私や大和のせいで何か悪い事態になっているのかもしれないじゃない。それにもしそうだったとしても、蓮君は私に本当のことなんて教えないでしょう?だから私には知らせないまま、大切なダンスを辞める決断をしてしまったんじゃないかと思うと、申し訳なくて、気が気じゃなくて……」

気が気じゃないというのは真実だろう。
琴子さんは気が焦っているのか、目の前にいる大和君の肩や頭を両手で落ち着きなく撫で上げている。
下から上に撫でられた蓮君の髪型がくしゃりと乱れるも、蓮君は約束通りおとなしく聞いていた。

素直に思いの丈を語ってくれた琴子さん。
だから俺も、誤魔化さずに事実を伝えたいと思う。


「確かに……パレードでの一件や、ファンの子達の行動が、俺の決断に無関係だとは言いません。むしろ、それがきっかけになったのかもしれない」


そう告げると、琴子さんは瞬く間に顔色を蒼くさせた。










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