閉園間際の恋人たち




はじめて重ねた肌の感覚を思い返し、うっかり体が熱を求めてしまいそうになったそのとき、後方でバサッと何かが倒れるような音がした。

「―――っ?」

ビクリ、もしくはギクリとして体を捻ると、ホワイエとリビングルームの間にあるバゲージラックから琴子さんのバッグが落ちていた。

「なんだ、あの音か……」

俺は明るくなりつつある窓辺から離れ、琴子さんのバッグを拾いに向かった。
入っていたものがいくつか床に飛び出しており、それらをバッグに戻そうと思ったのだが―――――


「………理恵さん」


折りたたみ型のフォトフレームが開いて落ちており、そこには琴子さんの親友であり大和君の母親である理恵さんが微笑んでいた。
やはり、昨日琴子さんがラウンジで眺めていたのはこの理恵さんだったのだ。

そしてその理恵さんの写真が入ったフォトフレームの下には、綺麗にラッピングされた細長いボックスが転がっている。
もしかしたら、琴子さんが俺のために用意してくれた贈り物、だったりするのだろうか……?

ドクン、と胸が大きく鳴る。
俺が琴子さんに指輪を用意したように、琴子さんも俺に………だとしたら、めちゃくちゃ嬉しい。
そっとそれに手を伸ばし、持ち上げてみる。
ふわりと上がり、思っていたよりも軽量だった。

何が入っているのだろう?
想像もつかない。
でももしかしたら俺宛てではないかもしれないし……
期待感たっぷりながら、一応は自制心めいたものを作動させていた俺だったが、拾い上げたボックスの下に隠れていた小さく巻かれた紙を見つけたとたん、自制心は一気に飛び去ってしまった。

「これ……」

ボックスを横に置き、その紙を手に取る。
それはサイズ的にはA4ほど、画用紙のような厚さで、おそらく巻かれた状態でリボンで結ばれていたのだろうが、そのリボンがバッグが落ちた反動で解けてしまったようだった。
水色のリボンが頼りない姿ですぐそばに落ちている。
そのせいで、ゆるく巻かれた紙がわずかに開いて、中身が見えていた。
そこには、俺の名前が記されていたのだ。
すべてひらがなの、幼く愛らしい文字で、”きたうら れん” と。


「大和君……?」

琴子さんのバッグからこぼれたもの、俺の名前、幼い文字、と条件が揃えば、その作者は大和君しかいないだろう。
俺は勝手にこれを開いてもいいものか躊躇うも、なんだかフォトフレームの理恵さんが『見てもいいわよ』と言ってくれてるような都合のいい錯覚がして、恐る恐る、丸まっている紙を開いていった。





―――表彰状(ひょうしょうじょう)
     
    きたうら れん 殿(どの)

   あなたはダンサーとして今日(きょう)までファンダックで
   たくさんの(ひと)笑顔(えがお)にしてくれました
   よってここにファンを代表(だいひょう)して感謝(かんしゃ)
   素晴(すば)らしいダンスを表彰(ひょうしょう)します

         きたうら れん のファン あきやま やまと ―――――












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