閉園間際の恋人たち




「すみません、秋山さん。秋山さんと約束するよりも前に、大和君と約束しちゃいました」

若干の申し訳なさを漂わせながらも、内心は計画通りだと満足していた。
まだたった二度しか会っていないけれど、そんな中でも秋山さんが大和君のことを大切にしてるのはよくわかっている。
それはただただ甘やかすというだけの厄介な溺愛ではなく、正しく本当の意味での溺愛だ。
だからこそ、大和君が純粋に楽しみにしてる誕生日の約束を、大人の理由で容易く反故したりなんかしないはずだと思った。
そんな下心満載な俺の詫びを、秋山さんは疑いもせずに聞き入れてくれたのである。

《いいえ、こちらこそ、気を遣わせてしまって、すみません……》
「あなたに怪我をさせてしまったきっかけは、俺ですから。ずっと気になってたんです。さっきは個人的に大和君にお祝いしたいと言いましたが、個人的に秋山さんにお詫びしたいという気持ちも大きいんです」

だからどうか、断らないでください。
そう言葉にはしなくとも、想いはありったけに込めて告げた。
すると、電話の向こうで秋山さんが微かに息を吐いた気配がして。


《………本当に、そんなに気にしてくださらなくても大丈夫なんですけど……。…でも、ありがとうございます。そのお気持ちは、とても嬉しいです。それでは……よろしくお願いいたします》

ついに折れてくれた秋山さんに、俺は包み隠さず「やった!」と歓喜の声をあげた。

「これで大和君との約束を破らずに済みます。ありがとうございます」
《そんな、こちらこそありがとうございます。大和も隣ですっごく喜んでます》

秋山さんの言葉通り、彼女のすぐ近くからは大和君のはしゃぐ声が動き回っていた。
きっとあのパレードのときのようにぴょんぴょんと飛び跳ねているのだろう。
可愛らしい様子が目に浮かぶ。
けれど、秋山さんと次に会う約束を取り付ける、という願いを達成できた俺は大和君にも負けないほどの上機嫌だった。

そのあと、俺の休みと土、日が重なる日を伝えて、その中から秋山さんの都合がつく日を選んでもらい、めでたく、俺達三人の初デート日が確定したのである。


「それじゃ、おやすみなさい」
《今日はありがとうございました。おやすみなさい》

まるでいつもそう言い合ってるかのような温度で別れを伝え合い、通話を終える頃、俺の頭にはこの前の和倉さんの飄々とした声が浮かんでいた。


『琴子ちゃん、押しに弱いからなあ……』


確かに、あの時も今日も、はじめは戸惑いながらも結局最後には俺の押しを受け入れてくれた秋山さん。
そのおかげで俺は次回の約束を結べたわけだが、それを喜ぶ裏では、俺以外の相手にもこう容易く押し切られないでもらいたいものだと、複雑な男心が疼いてしょうがなかった。









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