君との恋の物語-mutual affection-
渡米
留学する決心がついてからは、とにかく弱点を克服することに集中した。

しかし、留学すること自体が目的ではない。

留学前に俺が日本で一生懸命やっていたことは、【スタートラインに立つこと】だ。

そして、それを叶えた俺は、留学先の学校に転入手続きをした。

ここからだ。

そう、まさに。

ここから、俺はさらに自分の弱点を見つけては克服し、良さを伸ばしていく。

言葉は通じないし、食文化からして全く違うこの国で、どこまで自分を高められるかだ。

最終的には日本に帰って通用するようになっていなければ全く意味がないのだ。

そこで、俺はまず一つ決めた。

自分との約束だ。

この1年は、人前でドラムは叩かない。

1年は、自分と向き合うだけの時間にするといいうことだ。

無論、演奏試験は別だけど。

結とは、同じ学校だが寮は別だし、授業も隣で受けていることがほとんどなのだが、学校内ではなるべく英語で話している。

2人とも、早くこの環境に慣れたいからだ。

結は結で、同じ楽器に友達もできたようだし、俺にも友達はできた。

さて、今日も授業の空き時間は研究室にこもって練習をする。

最近わかったことだが、ここにいる学生は数日に一回、大部屋で自分たちの持つ技術を披露し合っている。

先日、俺も誘われたので、次は出てみよう。

そこではあくまで自分の持っているものを披露するので、参加するために何か特別な練習をしたりはしない。

俺がやることはただ一つだ。

集中。今日も自分の演奏の気に入らないところを徹底的になおす。

この学校の研究室は、いつでも出入り自由だ。

流石に夜中になればほとんど人はいないが。

俺は、授業後は大体ここで練習をしていて、夕方に一度寮に帰って食事を摂ったら、また戻ってくきて練習をする。

今度は夜中までだ。

日本でも同じことはできたはずなんだけど、こっちにきてからは他に行くところもやることもないので、練習はかなり捗っている。

練習するだけでなく、そろそろ演奏を聴きたいものだ。

留学してわかったのは、俺と彼らの差は技術ではないということだ。

技術ではない、もっと根本的ななにか…

それを知るためにも、もっともっと彼らと交流して、それを見つけたい。

なにかとは、一体なんなのか…

育った環境なのか、聴いてきた音楽なのか、文化なのか…

こういうことを知ろうと思ったら、研究室にこもってばかりではだめだとも思う。

今日は、夕食後は街に出てみるか…。

危ないエリアは予め教えてもらっているので、比較的な安全なエリアで、ライブハウスでも探してみるか。

一瞬結を誘うか迷ったが、今回は1人で行ってみることにした。

一度1人で行ってみて安全そうなお店なら次は結を連れて行ってみると言うのが良さそうだ。



俺の留学生活のスタートはこんな感じだった。

ただひたすら、音楽と、自分と向き合い、外国の文化と音楽を学んだ。

後に終わる気がしない量の課題に翻弄されたりもしたが、この2年間のことを、おれは一生忘れないだろう。

誰にでもできる経験では、決してなかったのだ。


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