カタワレのさくら
花吹雪が私たちを見守るように、優しく世界を包んでいる。



「わたし、がんばるからっ……! だからだから……」

「わかってるよ。さくらの言いたいこと――ちゃんと伝わってるから」



ふわりと少年が唇を重ねた。それは約束のしるし。桜の淡く切ない香りが胸の奥まで、沁み渡る。言葉を、香りを、きっと忘れない。




「さくらに逢えてよかった。がんばれよ」

「うん……っ」


花吹雪は嘘のように消え去り、始まりの場所に立っていた。見上げた校舎は、もうこわくない。



あれからまた、神社の桜はなぜか咲くことはなかった。


それでも桜の季節が訪れる度思い出すのだ。あれはもしかして幻想だったのでは、と思う時もあるけど――でも。




「夢じゃない。だって“勇者”になれたから……。――私も、桜に逢えてよかったよ」



これは終わりじゃない。


新しい夢の、始まりだ。



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