カタワレのさくら
私はよく近所にある神社の神主さんに会いに行っていた。


神様のことやお仕事のお話を聞かせてくれるのがとても新鮮で、ささやかな楽しみだったのだ。ある時咲かない桜の話をしてくれて、見たいとせがんだらそこまで連れて行ってくれた。



次の日からその桜に会いに行くのが、いつの間にか日課になっていた。そして、友達になろうと私は笑顔で話しかける。


子供の頃はいつだって、世界は虹色だった。



「わたし、さくらっていうの」





桜色に染まる鮮やかな世界。


次の瞬間には、少年に抱きあげられていた。



「ああ……やっとさくらに逢う事ができた……! こうして触れる事が……! 夢みたいだ。叶うなんて思わなかった」

「どうしてそんなに……?」

「――咲けない桜は。咲かない桜は、ずっとたったひとりの女の子を想ってたんだ。今思えば、全部さくらのためだったんだなって想うよ」





涙がぼろぼろとあふれてくる。


“世界を変えるんだ”と思って、いじめられた日々から抜け出したくて、こうして高校生活に挑もうとしたけど――結局自分の力じゃ……。


新しい門出につまずいた私を、優しく励ましてくれるあなたの声。



「泣くなよ。俺まで悲しくなるじゃないか。今度また邂逅できるのはいつかわからないけど、さくらなら絶対大丈夫」




そっと涙を掬ってくれる言葉。


さみしいけれど、それは別れの言葉じゃない。


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