遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「痛っ!」
「靭帯は大丈夫そうだ。捻挫だと思うが、痛みが強いし念の為に病院に行くか」

 彼は亜由美に靴を渡すと、ひょいっと亜由美を横抱きに抱えた。いわゆるお姫様抱っこだ。

「あの! 大丈夫ですから!」
「あんなに痛がって大丈夫もないだろう。病院までは我慢しないか?」
「我慢?」

「見知らぬ男と一緒でも」
「いえ。むしろこちらがご迷惑かけているし、あの重いですよね? 私、片足で……」

「そんなヒールでケンケンしてみろ。そっちの足も挫くのがオチだ」
 そう言って怖い顔をされた。

「ごめんなさい」
 亜由美が謝ると彼はふっと表情を緩める。

「まあ、朝もあんなことがあったし、これも縁だから気にしなくていい」

 横抱きにしたまま、彼は駅のタクシー乗り場に向かって、亜由美をタクシーに乗せてくれた。

「ありが……」
 お礼を言おうとしたその時だ。彼が車に乗り込んできた。

「港南病院まで」
「え……」
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