遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「洗えるから気にしないで」
 朝の件といい、本当になんて親切なのだろうか。

 その言い方に愛想はなかったけれど、とても親切だと亜由美は思った。
 足をそっとハンカチが置かれた地面に降ろしたその瞬間である。

「い! 痛ーいっ!」
「え⁉︎」
 本当に今度こそ涙が出てきた。

「……っう……もう、やだ……」
「ちょ……君、どうした?」
「痛いんだもの……」

 置いた足の足首辺りにとんでもない痛みを感じたのだ。

「ヒールに足を取られたときに捻ったんだろう」
 度重なる不幸と痛みに亜由美はぽろぽろと涙をこぼす。

「まあ、朝もあんなことがあったしな。泣くな……痛いか? ん? ちょっと動かすぞ」

 彼は亜由美の足をそっと手に取った。
 そうして軽く動かす。

「これはどうだ?」
「大丈夫……」

「これは?」
と別の方向に動かされたときに足に鋭い痛みが走った。
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