遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 いつも苦虫を噛み潰しているような顔の鷹條がふわりと表情を緩めた。

 その解けたような顔は元々が端正で整った顔立ちのせいか、亜由美をどきりとさせる。

 ふふ……っと言う笑い声も。
「やはりしっかりしているよ」

「あ……」
「本当にいいんだ」

「でも、気が済まないです……」
「立場的に、と言ったら納得してくれる?」
「立場?」
「公僕なんだ」

 『公僕』公務員を指す言葉なのだと亜由美も聞いたことがあった。
 その立場なのであれば、確かにお礼をするのも単純にとはいかないのかもしれない。

 けれど純粋に嬉しかった気持ちにお礼をしたいのに、どうしたらいいのだろう。
 しゅん……と俯いてしまった亜由美に鷹條は最初よりは柔らかい雰囲気を向ける。

「その気持ちだけで十分だよ」
「でも……」

 お礼、と言いながらも亜由美は自分の気持ちには気づいていた。
 この人をとても好ましく思っているのだ。これで切れてしまいたくない、という気持ちがある。

 けれど、鷹條を誘う勇気がどうしても出ない。
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