遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 この日の朝、鷹條千智(たかじょうちさと)は当直明けだった。

 警察官ならば誰でもある勤務だが、鷹條が勤務するのは警察庁警護課で、つまりSPと呼ばれる「セキュリティ・ポリス」という要人警護の仕事についている。

 SPの警護対象者というのは実は規定されており、係は四つに分かれている。

 一係は総理大臣、二係は衆参両院議長・副議長、最高裁長官及び国務大臣、三係は国賓や海外からの外交使節団で、四係はその他の政府要人だ。

 鷹條はその二係に所属していた。
 時期的に国会の予算委員会の決議の真っ最中であり、審議が不十分だと紛糾したため、通常ではありえないくらい委員会が長引いた。

 当然のこと、鷹條が警護する内閣官房長官も足止めをくらい、無事に送り届けて報告書を完成させたところで、夜が明けていたという次第である。

 その帰り道のことだ。
 鷹條は寝不足と疲れで不機嫌だった。

 そんな中、鷹條の目の前で自宅の最寄駅で綺麗な女性に因縁をつける男がいたのだ。

 男に絡まれていたのは、すらりとしていて美人な女性だった。男はぶつかっただのなんだのと言っている。

 しかし、男の真後ろにいた鷹條には女性がわざとぶつかったというより、男がぶつかりに行ったようにしか見えなかった。
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