遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 それは、おそらく駅の防犯カメラで見ても分かるだろう。
 鷹條がそう言うと、男は自分が後ろめたいことが分かっているのか、やけに引き際が早かった。

 女性には名前を尋ねられたけれど、そんなことくらいで名乗ろうとも思わない。
 それよりも、とにかく早く帰って寝たい……というか身体を休めたい、と言うのが鷹條の本音だった。

 軽く仮眠をとり、着替えをして出勤する。
 そして、まさか帰りにもその女性に遭遇するとは思わないではないか。

 最初、鷹條は朝の彼女だとは気づかなかったのだ。

 駅を出て、コンビニで買い物でもしようかと思ったところ、女性が急に何かに足を取られたように転倒した。

 しばらく見ていたら、ヒールの踵が溝にはまってしまったようで、女性は一所懸命に抜こうとしている。

 周りにいた誰もがチラチラと見ているけれど、助けようとはしないので、やむなく鷹條は声をかけたのだ。

 半泣きで潤んだような瞳で見られてやっと朝の彼女だと気づいた。

──しっかりものに見えるが、少しおっちょこちょいなのだろうか?
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