遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 反射的にそう口にしていた。香坂は口の端をにっと引き上げていた。

「ふぅん? それはなぜ? 彼女が既婚者でもなくて、彼氏もいなくてフリーだったら、別に誰がアプローチしてもいいんじゃないか?」

 鷹條は彼女が今、家族も頼るものもなく一人だということを知っている。

「とにかく、ダメだ」
「お前の許可は要らないよ。お前はお前で好きなようにすればいいだろ。今ハッキリ言ったのは、明確にしておきたかったからだ」

「何をだ? ライバルだとでも言いたいわけか?」
 鷹條は自分でそれを言って、香坂の表情を見てからしまったと思った。

 香坂は何を明確にするとは一言も言っていない。
 焦るあまりに鷹條は先走って香坂をライバルだと口走ったのだ。

「ま、僕は『何を』とは言っていないよ?」
「そうだな」
 歯噛みしたいような気持ちだ。

「『何を』は今から言うんだ。つまりお前がアプローチもしないでノロノロしているんだったら、僕が彼女を守りたいって話だよ」
 にやにやと笑っているのが心から腹立たしい。

「絶対に手を出すな」
 そう言って、診察室を出てロビーの椅子で待っていた亜由美に声をかけた。
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