遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
──個人的に関係があれば、別だが。
 そんなことを考えていたら、マンションの前に着いてしまった。

「あの……良かったら、何かお出ししますけど……」
 亜由美は律儀な性格なのだろう。それは今日のさまざまな言動から見ていても分かる。

 いくら亜由美がいいと言ってくれたからといって図々しく上がり込むことは、鷹條にはできなかった。

「いや。こんな時間に独身のお嬢さんの部屋に上がり込むわけにはいかないだろう」

 連絡先を交換してほしいと言えばいいのだろうか。
 強要にはならないだろうか?

 そんなことを考えていたら、ありがとうございましたと鷹條は頭を下げられ、亜由美はマンションの中に入っていってしまった。

 その後ろ姿を鷹條は見送ることしかできなかったのだ。
 軽くため息をついて、鷹條は自宅の方に足を向けた。



「はーっ……」
 部屋に着いて、亜由美は大きくため息をつく。

──勇気が出なかったわ。
< 30 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop