十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
私、東雲美空(しののめみそら)はもうすぐ結婚する。
相手は、中野和馬(なかのかずま)さん。
私が20歳で新卒入社をしてから今まで、ずっとお世話になっている直属の上司でもある。
気のいい中野さんは、社内の若手から頼られる、みんなのお兄さん的存在。
私も、飴と鞭を上手に使い分けて面倒見てくれた中野さんには、いくら感謝してもしきれない。

そんな、ただの上司と部下でしかなかった私と中野さんの関係性が変わったのは、ほんの1週間ほど前の、桜が間も無く散ろうとしている夜の事。
新卒で入った後輩達の歓迎会でのことだ。

その時、私は6月までにどうしても叶えたい目標があったが、どうすれば達成できるのか分からずに悩んでいた。
そんな私の様子を気にかけてくれた中野さんが、ビールを注いでくれながら

「どうした?」

と声をかけてくれたことが始まり。
いつもだったら、決して会社の人なんかには言わないような悩みだったが、アルコールの勢いもあり、つい話してしまった。
すると偶然にも、中野さんも同じような悩みを抱えていたことが分かった。

とても人前で詳細を話せるような内容ではなかったので、歓迎会の一次会が終わった後に2人だけの二次会で詳細を確認し合った。

私たちは、すぐにでも結婚をしないといけない事情を抱えていた。
私は6月までに、と言う絶対的なデッドラインが存在する。
中野さんには具体的なデッドラインはないとのことだったが、なるべく早く既婚者になる必要があるとのことだった。

この話をした時、私たちが思ったことは同じだった。
お互い、数年間、1日8時間以上を共に過ごしてきた間柄だ。
決して知らない間柄ではない。
今から婚活という、勝てるかどうかも分からない勝負を仕掛けに行くよりずっと確実。
そうして私たちは交際0日で、恋愛感情抜きの婚約してしまった。

それが、私にとって最善策だと本気で思っていたのだ。
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