十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
「それで?」
「え?」
「えって……用事があるから、戻ってきたんだろ?」

ただ、ここにもう1度来たかったという、抑えられない欲に従っただけの事を、用事と言ってしまってもいいのだろうか。
私は、次の言葉を探すために、視線を左右に揺らす。
ちょうど言い訳に使えそうなものを、すぐに見つけることができた。

「あのさ……これなんだけど」

私が指差したのは、テーブルの上に置かれた小さな額縁。
入っているのは、写真ではなかった。

アクセサリーのオーダーメイド、受け付けます。

そう書かれた、小さな絵葉書のようなもの。
そこには指輪やネックレスが、水彩絵の具で優しく描かれている。
きっとこれも、理玖が描いたものなのだろう。
私には決して思いつかない、触ったら壊れてしまいそうな程の繊細なアクセサリーが、紙の上で絵筆によって具現化されていたから。
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