十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
これが、父親の最期の言葉になった。
それからすぐ、父親は少しだけ苦しんだかと思うと、眠るように息を引き取った。
火葬の時、本当は父親の指から指輪を外すのは嫌だったけれど、葬儀社の方からダメと言われていたので、仕方がなく抜き取った。
代わりに理玖の機転で、紙で作った全く同じデザインの指輪を2つ棺に入れた。
1つは父親の左薬指に。そしてもう1つは父親の手の中に。

向こうで母親に会えたらすぐに母親に渡せるように。


「理玖」
「ん?」

私たちは、父親の火葬が終わるまでの間、煙突を眺めていた。

「お父さんを最後幸せにしてくれてありがとう」
「それを言うなら、俺だって……お前が俺のところに戻ってくるきっかけをくれて……お義父さんには感謝しかないよ」
「うん……そうだね……」

もう2度と会わないと思っていた。
巡り合わないと思っていた。
でも、まるで指輪の円のように縁が再び繋がった。
それが一体どれだけの奇跡か。
そんなことを考えながら、理玖からもらった指輪を見つめていると

「美空、こっち向いて」
「ん?」

ちゅっと、軽いキスを理玖から落とされた。

「ちょっ……理玖!?」
「いや、誓いをするのに良いチャンスだと思って」
「え!?」
「綺麗な空も、広がってるしな」

そう言うと、理玖は私の指輪をしている左手を取りながら、指輪を渡してきた。

「これ……は……?」
「俺のだ」
「え?」
「お前とお揃いで作ってみた」

確かに私が作ってもらった指輪と、ほとんどデザインは同じだったが、理玖の指に似合うような工夫を施されていた。

「お前の手で、つけてほしい」
「……この指輪をつけたら、もう逃げられないと思うけど?」
「逃げたお前を捕まえる以上に大変なことはないよ」

そう言うと、理玖は自分の左手を私の前に差し出した。

「理玖。次の指輪は私がまたデザインしてもいい?」

私はそう言いながら、理玖の左薬指に指輪を通した。
それからすぐ、理玖は私を

「これでもう逃げられない」

と囁きながら強く抱きしめてきた。
その瞬間、風がサラッと私の頭を撫でた。
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