月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
「さっきまで飲んでいたのでは?」
「主役はね、色々と気を使うと飲めなくなるの。酒の席で飲めなかったこのストレスを晴らすため、公園に行くからね」

 私の勢いにちょっと呆れたように肩を竦めると、それでも暗月は私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。甘やかす意図を持ったその仕草に、私の羞恥心ゲージがすぐに振り切れた。あまり飲んでいないはずなのにあっという間に耳まで火照り、私は慌てて商品棚を見る振りをして暗月から一歩離れる。

「どうした?」

 なぜ離れたのか分からずに、暗月が聞いてきた。照れたからです。なんて店内で言えるわけもない。

「お酒選ぶの」
「そこには無いぞ」

 言われて自分が立っているところがお菓子コーナーであることに気が付いた。なんとなく負けが込んでいる気がして、ムッとしてしまう。ほらあれだ。照れの反動ってやつだ。

 私はそのまま棚をざっと見渡すと、目についた商品を手に取る。

「チョコレート?」
「うん。ちょうどいいや」

 これが今日のツマミだな。一人頷いて、次はお酒コーナーに行く。

 宴会コースの料理のおかげで、お腹は十分満たされた。デザートのアイスはお喋りをしているうちに溶けてしまったので、これをツマミのデザート編として軽く飲もう。

「赤ワインとウィスキー、どちらを取るか……」
「ビールでは無いんだな」
「ビールとチョコは合わないよ。それに一次会で十分飲んだしね」

 言いながら、棚の商品を眺めてうーんと唸る。本音を言えばウィスキー。濃厚なチョコの甘さにウィスキーの燻された香りが混ざり合う、まさに大人になって知る美味しさを愉しみたい。が、外飲みどうするのよ問題にぶち当たるのよね。ウィスキーの小瓶を直飲みって、海外っぽくてカッコいいけど、実際に私がやったらただの場末の酔っ払いだ。

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