月下双酌 ─花見帰りに月の精と運命の出会いをしてしまいました─
 瓶が駄目なら缶なら良いのか? なんて思って冷蔵庫に場所を移し、缶の酒を眺めてみる。ウイスキーで缶といったら、ハイボール。それはそれで好きだけれど、チョコという雰囲気ではない。となると残る選択肢は赤ワインなんだけれど、同じことはワインにも言えてボトルをラッパ飲みって、

「おっと。カップ酒のワインがあった……」

 なんてことでしょう。こんな素敵なものが開発されていたなんて!

 ホクホクとした気分で冷蔵庫の扉を開け、カップを手に取った。と、いけない。ここまで自分のことしか考えていないぞ。

「暗月は?」

 隣を見上げて聞いてみる。

「同じで良い」

 一見受け身な言葉。でも好奇心に満ちた目でカップを眺めている。暗月は暗月で下界のこと楽しんでいるのだろう。そんな些細なことに嬉しさを感じながらコンビニでの買い物を済ますと、いつもの公園へと向かった。



 ベンチに座り、カップの蓋をそっと開ける。暗月が開けるのを待って、こぼれないように静かに乾杯をした。

「乾杯」
「乾杯」

 一口飲んで、うんとうなずく。濃い目のしっかりとした味なのに渋みが少なく甘味を感じる。これ、するするいけちゃうやつだ。

「美味しいね」

 言いながら、チョコを一口かじった。口の中でチョコの甘さが追加され、混ざり合い、溶けていく。

「これいいね! 食後のデザートいらない派だけれど、これならいける」

 美味いもの発見した! と嬉しくなりながら、またワインとチョコの組み合わせを堪能する。うん。ワイン美味しい。チョコもいい。

「お前は本当に楽しそうに酒を飲む」

 くすくすと笑って暗月が言ったけれど、なにを当たり前のことを言っているんですか、暗月さん。

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