つけない嘘
駅前で待っていると、ほどなくして亮がやってきた。

運転席から降りて来た彼の顔に笑顔はない。

「乗って」

そう言うと、助手席の扉を開けた。

「うん」

後悔なんて絶対しない。

私は奥歯を噛みしめ亮の車に乗り込んだ。

座席の革の匂いと彼がいつもつけてるオーディコロンの香りがする。

車はゆっくりと駅前のロータリーを抜け大通りに出た。

誰にも知られてはいけない何かを共有しようとしている緊張感が車内を満たしている。

何を話せばいいのかわからず黙っていた。

沈黙と緊張が張りつめた時間は、私の鼓動と反比例して穏やかでゆっくり過ぎていく。

高速に乗ってしばらくすると、亮がようやく口を開いた。

「今日、言ってた妊娠したって話、嘘だろ?」

「……どうして?」

「瑞希さんは何かをごまかす時いつだって口を左に曲げる癖があるからわかりやすいんだ」

私は否定も肯定もせず、ほんの少し笑うと窓の外に目を向ける。

自分でも気づいてない癖を亮が知っていることに高揚しながら。

亮は続けた。

「どうしてさっきまで外にいたの?」

「夜の散歩」

「一人で?」

「そうだよ」

「月の写真なんか送りつけてくるなんて意味深すぎるじゃん」

「きれいだったから送っただけ」

「何かあったんじゃないの?」

「……」

「また口が曲がってるぞ」

私が慌てて手で自分の口元を押さえると、亮は前を向いたままおかしそうに笑った。

「お前といるとあきないよ」

私もだよ。

亮は大きく息を吐いて言った。

「このまま二人でどこか知らない場所へ行ってしまいたい」

「誘拐?」

「同意があれば誘拐じゃない」

「行っちゃう?」

「同意と受け取っていい?」

彼は嬉しそうに笑う。

あ、この顔が好き。
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