When pigs fly〜冷徹幼馴染からの愛情なんて有り得ないのに〜
 しかしそのことを口に出して傷ついたのは、恵那自身だった。泰生からなんの感情も抱かれていないことを気にしていると、自分から吐露してしまったのだ。

 涙が出そうになって、慌てて顔を逸らす。泰生の胸を両手で押して立ちあがろうとしたところを、逆に腕を強く掴まれ止められてしまう。

「……離して」
「……もしかして恵那が言っているのは、五年前のことか?」

 そこまで指摘されては、泰生の顔を見るのは無理だった。きっと今彼の顔を見たら泣いてしまう。私があの日に悲しんだことがバレてしまう。

「離してってば!」

 泰生と一緒にいるなんて耐えられないーー泰生の手を振り解き、恵那は玄関に向かって走り出す。ドアを開けて裸足のまま外に飛び出すと、悩みながらも上り坂の続く山道よりも、平坦な道が続く川の方を選択して走り出した。

「恵那!」

 追いかけてくる泰生の声が近付いてくる。木の枝や石を踏んで、足の裏が痛い。それでも走り続けた。

 川を越えようとした時、腕を掴まれ泰生の体と共に川の中に倒れ込んだ。気がつけば恵那の体は泰生の腕の中にあり、強く抱きしめられていた。

 水の中は冷たいのに、泰生の腕の中は暖かくて優しかった。泰生は胸を上下に激しく動かし、息切れをしている。

「……逃げるなよ」
「……何よ……! 最初に逃げたのは泰生じゃない……私を置いていなくなった……!」

 泰生は恵那の目を驚いたようにじっと見つめた。

「それは……!」

 言いかけたが、恵那がタイミング悪くくしゃみをしたため、そこで言いとどまってしまう。
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