書道家が私の字に惚れました
「今は10割きみだよ。きみがほしい。それではダメなのか?」
「ダメじゃないんですけど……っ?!」
口を唇で塞がれ、言葉が遮られた。
驚いて目を見開いたままでいると、至近距離で薫先生と目が合う。
右、左と視線を動かすと薫先生は私の体を抱き寄せた。
「ダメじゃないなら俺のものになれ。俺のそばにいてその美しい笑顔と字を見続けさせてくれ」
「また字。フフ」
もうここまで来ると可笑しくて、ドキドキする状況なのに笑えてくる。
「薫先生といると笑っちゃう」
笑いながら言うと、薫先生は体を離した。
「それはつまり」
恥ずかしいけど、真っ直ぐ目を見て思いを伝えよう。
「薫先生といる時間が楽しい。好きだということです」
薫先生は私の真意を探るように瞳を交互に覗き込んでいる。
まだお互い探り探りなのだ。
「知らない部分が多いですよね。知ってもらったら嫌われちゃうかもしれないけど。でももっと知ってほしいし、知りたいと思いました」
ひと呼吸おいてから真っ直ぐ見つめて告げる。
「私は私に出来ることを探します。薫先生のそばにいても卑屈になったりしないように。なので私と結婚を前提としたお付き合いをしていただけますか?」
しっかり届くように声を張ると、薫先生の表情は一瞬、固まったけど、すぐに破顔してにこりと微笑んでくれた。
「もちろんだ」
「よかった」
薫先生の笑顔につられて笑うと、薫先生もまた笑う。
それを繰り返しているとなんだか気恥ずかしくて俯く。
すると頬に添えられていた薫先生の手が私の顔を上げさせた。
そしてゆっくりと顔を近づけてきたので目を閉じると唇と唇が重なった。
「必ず幸せにする」
「あ、その台詞、二度目ですよ?」
指摘すると、薫先生はハハッと笑った。
「きみの記憶力は大したものだな。だが、いいんだ。美弥に向ける愛の言葉は何度でも伝えたい。何度でも愛していると伝えるよ」
Fin

