紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】

「戸締まりはちゃんとしてね。また連絡する。それじゃあ、おやすみ」


再びコクコクと今度はロボットのようにぎこちなく頷きながら、私はかろうじて「おやすみなさい……」と蚊の鳴くような声を返す。


そして何とかドアを開けてその隙間に身体を滑り込ませ後ろ手に鍵を閉めれば、コツコツコツ、と和泉さんが遠ざかって行く足音が聞こえて。

一気に力の抜けた私はヘナヘナとその場にへたり込んだ。


………いっ、いま、キッ、キスされた、よね………っ⁉︎


両手で口元を覆う。

真っ暗で静かな部屋の中、尋常じゃないくらいの大きさと速さで脈を刻む自分の心臓の音を聞きながら、初めての感触に私は指でそっと唇をなぞった。

まさにあれは奪われた、という言葉がぴったり来るはずなのに。

不思議と嫌ではなかった自分に驚く。

初めてだったのに、全然嫌じゃ、なかった。


どうして……?


それに、この前から少しずつ感じるようになった小さな胸の違和感。

チクッとしたり、モヤッとしたり。


和泉さんにドキドキさせられ過ぎて起こした誤作動的なものだと思っていたけれど、どうもそうとも言い切れないような気がして来て……。


でもアルコールの染み込んだ私の頭にまともな思考回路がある訳もなく、答えなんて出るはずもない。



ーーいろいろあった夜だった。



もうこれ以上は何も考えられそうにない。

 

未だドキドキが鳴り止まない胸に手を当てて、早々と考えることを放棄した私。






だけどまさかそんな私にこれから先、もっと心を騒つかせるような出来事が待ち受けているなんて、この時の私は思いもしなかったのだったーーーー。











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