「会いたい」でいっぱいになったなら
健に助けを求めて、携帯を鳴らそうかとも思ったが、今いる場所がよくわからないから、呼ぶに呼べない。


手に持った地図を広げ、現在地を探すもさっぱりわからない。


困った。


キョロキョロしていると、後ろから声をかけられた。

「どうかされましたか?」
振り返るとジャージ姿の男性が、スポーツバッグを肩にひっかけて立っていた。

「あ・・・」

どうしよう。
この場所を聞いてみようか?でもちょっと恥ずかしい。
一瞬悩んだが、このままでは会場に戻れない。

恥を忍んで、施設地図を広げた。


「すみません。迷ってしまって、、、。
あの、今いる場所って、どこかわかりますか?」
広げた地図をさしだした。


「ああ。迷子なんだね。ちょっと待ってね。えっとねえ・・・」

背の高い男性はバッグを長い足の間におろし、美琴の差し出す地図に顔を近づけた。

少し背中を丸める彼。
視界の情報から、私より頭一つ分以上の高い身長。
しっかりした背筋がTシャツ越しにわかる。

この人もスポーツする人なんだなと思った。

「今いるところはここ」
地図を指さしながら言う。

「どこに行きたいの?」
と背中を丸めたまま、頭と目だけを私に向けた。

目が合い、あまりにまっすぐでキラキラ光る黒い瞳にドキッとしてしまった。

「あ。と、えっと。フットサル場に・・・行きたいんです」
「フットサル?」
「はい」

にこりと笑った彼は、
「それならちょうどいい。俺も行くから一緒に行こう」
「え?」

バッグを持ち直した彼は、
「俺も初めて来たけど。多分、こっちだよ」
2,3歩歩いて振り返った。

私は慌てて彼に追いついて、横に並んで歩き始めた。

「初めてなのに、どうしてこっちって分かるんですか?」
「ああ。今、地図見せてもらったから」

「え?あれだけで?」
「うん。俺、地図見るの・・・得意?」

「なぜ語尾が疑問形?」
「地図見るのに苦手とかっていうのはよく言うけど、得意ってあんまり言わないじゃない?だから」

「確かに。ちなみに私は苦手です」
「うん。わかる」

そう言って笑いあった。


並んで歩くこの人から爽やかで少しだけ爽やかなシトラスの香りがした。




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