競馬場で騎手に逆プロポーズしてしまいました。
「あ…ほら、あの人」
「ウソ、騎手にプロポーズしたって」
ヒソヒソと小声だけど密やかに、確実に広がっていく。周囲の人たちに私の仕出かしたことがーー。
悔しくて、グッと下唇を噛んだ。
(なんて人なの!私への報復にこんな最低な嫌がらせを……こんな人だったなんて)
元々彼からの告白で付き合ったけど、少なくとも好意は抱いてた。だから承諾して恋人になったのに、話し合うこともなく一方的に私はフラレた。
なのに自分が二股かけられたとか勝手に誤解して。自分のちっぽけなプライドを守るために、私を噂の渦中に陥れようとしてる。
きっと、伊東さんはこう言うはずだ。
「皆さん、聞いてください!こいつはおれに付き合いを強要しておきながら、競馬の騎手と二股かけた挙げ句、金に目がくらんでおれを捨てたんです!これがその証拠です!!」
と、彼は私と並んで写ってるスマホの画面を高々と掲げる。
やっぱり。笑いたくなるほど自分本位で、あまりにも身勝手。リアルとは真逆のでっち上げのストーリーを、さも事実かのように演出する。
私へ向けられる視線が冷たくなってきた頃……。
唐突に後ろから抱きしめられて、心臓が跳ねた。