王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「沢山ありますよ。『ともちゃん』の好きなお稲荷に、竜田揚げに」

 晴恵は中身を取り出して並べてみせた。きゅるる、きゅーうううと檜山の腹の虫は大歓迎である。

「あのなあ!」

 振り返った男はくしゃくしゃの髪に無精髭。
 作業台の下にとぐろを巻いてそうな長い足。
 よれよれのシャツを傷だらけの皮のエプロンで包んでいたが、それでも美形だった。
 キリリとした眉に涼やかな双眸、通った鼻筋、薄い唇。
 ……双眸に剣呑な光が踊っていて、ハンサムというよりはワイルドであったが。

「鯉屋の女将さんから『ともちゃんに野菜も食べなさいよって言っといて』って、野菜の天ぷらときんぴらごぼうとお豆さん、いただきました」

 ぐ、と檜山が詰まる。
 ここぞとばかり、小さな包みを大事そうに掌に載せて微笑んでみた。

「デザートはお饅頭。お好きですよね?」
「断っておくが、こんな差し入れ程度で」
「『腹が減っては戦ができぬ』でしょう?」

 文句が飛び出してきそうな檜山の口の中にお稲荷を突っ込んでやった。
 吐き出すほどには性格が悪いわけではないらしく、もぐもぐしている。
 彼が飲み下したタイミングでほうじ茶のペットボトルを差し出した。
< 10 / 70 >

この作品をシェア

pagetop