王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 陽菜という名は、妹が生まれた日に咲いた庭の菜の花そして太陽からとったという。

 結婚式に彼女がまとうのは、名前をアレンジした明るいイエローのドレス。

「ウエディングドレスは着ないのか」
「フリッツが神前式を挙げたいそうなんです」
「変わっているな」

 少し檜山が笑う。

 結婚式で羽織袴をつけたい、陽菜の綿帽子・白無垢姿を見たいとフリッツが言い出した。
 母や晴恵のほうが『勝手に決めてノイマン家は大丈夫なのか』と慌てた。
 ところが、他ならぬフリッツの両親が『好きなことをして結婚するのがドイツ式だ』と、賛成してくれた。

「『だったら自分のドレスなんだから私がデザインする!』と妹が言い出して」
 
 ドレスはハートカットの襟ぐりに、ノースリーブ。膝丈で、パニエで膨らませている。
 トレーンはウエストで留めるようになっている着脱式のもので、後でジャケットに仕立て直せるようになっている。
 パニエを外せば優雅なフレアスカートのツーピーススーツとして長く着られる。 
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