王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 中でも、特徴的な部分はトレーンを留める菜の花をかたどった、ボタンと幅広のレースの帯。同じレースを用いた長手袋。

「ふん……」

 檜山はじっとボタンを拡大して写した写真を観察していた。ついで、カレンダーを見た。

「妹をここにこさせろ。なるべく早く」
「え」
「アンタのデータは見事だが、歩き方の癖を見たいし足裏にかかる圧も計測したい」
「……いいの?」
「よくはない」
 
 遠慮がちに訊ねた晴恵に檜山は即答だった。

「だが、ひと月ほどなら俺のクライアント達は待っててくれる」
「……ありがとう」

 晴恵が見せてもらえたのは靴作りのほんの一端でしかない。
 どれだけの労力と時間をかけて一足ができ上がるのか。
 それを待っている人々を思うと、万感を込めた感謝しか出てこない。

「勘違いするな、自分の恋を殺しても祝おうとする馬鹿な姉のためじゃない。今までの差し入れ代と、幸せになるべき花嫁のためだ」

「わかってます」

 檜山は背中を向けると木型に取り掛かった。

「結婚式の一週間前にとりにこい。それが精一杯だ」
「はい!」

 晴恵の声が弾んだ。
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