王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
嫉妬でどうにかなりそう
 翌日、十九時すぎの予約で檜山宅に陽菜を伴って向かった。

「遠いね……」

 陽菜が弱音を吐く。
 どれだけ履きごこちのいい靴を選んでも、妹が履くうちに靴の甲の親指の付け根あたりに筋が入る。その筋が外反母趾の部分に当たって痛いらしい。

「靴なんて、オーダーでも既成でも変わらないよ。結婚式って言ったって、二・三時間のことなんだから我慢したほうがいいような気がしてきた……」

 一ヶ月後の拷問より、目先の痛みが辛いらしい。

 檜山が住んでいる場所は駅から二十分はある。
 その道のりの大半は商店街を通ることになるから退屈ではない。だがそろそろシャッターを閉める店も多く、いつもより人通りは少なかった。

 陽菜は十八時に終わるデスクワークについているが、彼女の勤務地から檜山宅の最寄り駅までは三十分はかかる。あまり、休ませてあげられない。

「もう少しだから」

 小さい頃は妹をおぶった。けれど、大人になっても背負うわけにはいかない。

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