王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「ついた」

 ……妹を連れていく不安から、いつもより道のりが長く感じていたから、檜山宅の灯りが見えて晴恵はほっとした。

 サクリ、ザクザク。

「晴恵か」
「はい……っ」

 名前を呼んでもらえたことにトキめいたのも束の間。

「え? 今の声の人が靴を作ってくれる人なの? 職人ていうからおじいちゃんだと思ってた。もしかしたら、若い?」

 それまでの不機嫌さが嘘のように、陽菜がはしゃいだ声で囁いた。
 晴恵の心臓が不穏な音を立てる。

「お疲れ」

 珍しく、檜山が入り口まで出迎えてくれている。

 晴恵は息を呑んだ。
 立っている姿の檜山を見るのは初めてだった。
 段差もあるが背が高い。
 オランダ系ドイツ人のフリッツは一九〇近いが、檜山も一八〇は超えているのではないだろうか。

 ……陽菜も隣で見惚れているようだ。

「そっちが妹か」
「あ、ハイ」

 晴恵が紹介するまえに陽菜が名乗った。
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