王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 口を尖らせる妹に、晴恵は声を荒げた。

「陽菜!」
「はぁい。檜山さん、お姉ちゃんてすっごいお固いですよね」

 檜山に同意してもらいたがる妹に、晴恵は腹が立つ。

「そのようだな」

 陽菜がはしゃぎながら檜山にまとわりつく。檜山も晴恵にしたようには、邪険にはしない。
 陽菜がクライアントだからだろうか、それとも……。
 晴恵は嫉妬でどうにかなりそうだった。



「いやー、檜山さんカッコよかったねえ」

 家に向かう電車のなか、陽菜のおしゃべりが止まらない。

「そうだ! ヴァージンロードをエスコートしてもらおうかな。司会の人に『この日の為に花嫁の靴を製作してくださいました檜山様に、新婦を新郎のもとに送り届けて頂きます』ってアナウンスしてもらうの。どーお?」
 
 晴恵はぎょっとした。
 なんてことをいうのだ。

「ダメ!」

 彼はホームページに写真はおろか、電話番号すら載せていない。
 あんなイケメンを外に出しては、世の中の女性が工房に殺到してしまう。
 何よりも。
 
「大丈夫、天国のお父さんだって怒らないよ。お姉ちゃんだってお母さんが隣にいたほうが寂しくないでしょ」
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