王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく

 退店まで待っても『出来た』というメールすら檜山からは届かない。
 最初の頃のように檜山にけんもほろろな対応をされては、恋心を吐露するどころか心が破れてしまいそうだ。

「それでも、行かなくちゃ」

『これから靴を受け取りに伺います』
 晴恵は絶望的な気分になりながらメールを送った。

 十九時。
 懐かしく思える駅を出れば、商店街が広がっている。

「檜山さん、駅近くのケーキ屋さんのマドレーヌ好きだっけ……」

 なんせ、晴恵が姿を見せるとどこをどうご注進が走るのか、ほうぼうの店から声がかかる。

「私が『ともちゃんの好物』って聞かされるとつい買っちゃうからだよね」

 くすりと笑みを浮かべながら、まだ開ている店を覗いていく。
 鯉屋の近くまで来れば女将が待ちかねたように飛び出してきた。

「はるちゃんっ、心配してたんだよ?」

 涙目の女将に肩を揺すぶられた。

「ともちゃんと何かあったんじゃないかって!」
「な、何もないですけど」
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