王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 目をぱちくりさせた晴恵を見て、女将は鼻を啜った。

「……ならいいけどさ。はるちゃんは仕事が忙しかったのかい? ともちゃんが幽霊みたいになってたから」

「え」

 ギョッとした。
 まさか、陽菜が言いつけを破って檜山にまた迷惑をかけてしまったのだろうか? ……それとも、根を詰め過ぎて体でも壊した?
 心配でたまらなくなる。

「とも、じゃなかった、檜山さんに何かあったんですか!」
 
 晴恵が血相をかえると女将はじっと彼女を見、そしてにんまりと笑った。

「んー……、まあねえ。あの子がぶっ倒れるまで靴作りに集中しているのは、いつものことなんだけど。今回は特にひどくて」

「私、見てきます!」

 居ても立っても居られなくて、晴恵の足が段々早くなる。ついには小走りになった。

 たったったった。
 サクリ。

「晴恵か」
「檜山さんっ」

 草を踏み締めた途端、発せられた声の主に晴恵が駆け寄ると、ぐいと引き寄せられた。
 抱きしめられたとわかったのは、彼の荒い呼吸と激しく上下している胸を頬に感じたから。

「あれだけ毎日押しかけてきてたのに、なんで来なくなった」
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