王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 自分を抱きしめようとしかけた男の腕が不自然な形で止まる。

「晴恵の足の特徴を見て作ったが、微調整が必要だ」
 
 頬を赤らめながら言われてしまえば、従うしかない。

 歩いたり屈んだりするように指示される。
 ……途中で彼のジャケットを奪われてしまったので、生まれたままの姿で檜山の作った靴だけ履いている状態だ。
 彼の真剣な眼差しが靴だけではなく晴恵を頭の上からつま先まで見ていて、とても恥ずかしい。

 晴恵に何度も工房の中をターンさせて、とうとう満足したらしい。

「あとは結婚式までにまめに履いて、馴染ませておけよ。仕事にも履いていける形にした」

 象牙色の花びらをかたどったコサージュをつけたストラップで華やいだ雰囲気だが、取り外せば全体としては極めてシンプルな形だ。けれど、惚れ惚れするほど曲線が美しい。

 靴は履くほどに足に馴染む。
 勿論、毎日履いてしまうと湿気を逃せなくなるから糸や皮の劣化は早くなる。
 だが、檜山は自分の靴は金庫にしまう物ではなく、ショーウィンドウに飾る物でもなく、日用品だと告げている。

「ありがとう!」

 晴恵がにっこりと微笑むと、檜山はちょいちょいと自分の唇をつついた。
 彼女はおもはゆく感じながら檜山のそれへ自分の唇を寄せていく。
< 49 / 70 >

この作品をシェア

pagetop