王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 じっとしていると、なにかの上から親指の付け根を押されたり、踵を持ち上げられてひねられたりしている。

「外周や甲の高さはちょうどいいな。立って見せろ」


 手を引かれて、体を起こすよう促される。
 彼の上着で体を隠しながら、自分の足元を見下ろして晴恵は目をまん丸くした。

「これ……」

 晴れ空の色、コバルトブルーの靴を履いている。
 つま先はアーモンドトゥ。アーモンドのように尖った先端は美脚に見えながら、疲れにくい。
 
 子猫を意味するキトゥンヒールは五センチほど。
 踵もつま先も足裏も、晴恵の足に吸い付くようにフィットしている。ともすれば履いていることを忘れてしまいそうだ。

「結婚式にはこれを履いていけ」
「檜山さんが……作ってくれたの?」

 呆然として呟けばぶっきらぼうな答えが返ってきた。

「他の誰が作るっていうんだ」

 彼の赤くなった耳が裏切っている。

「妹の靴の他に、私の靴も作ってくれてたの……」
 
 陽菜の靴自体、飛び入りの仕事だった。
 加えて、晴恵の靴まで。
 ……だから、愛おしい男の目の下にこんな隈があるのだ。
 嬉しくなって抱きつこうとした。
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