王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
「アンタが俺をメロメロにさせたら、他の客より優先して作ってやる」
「あの」

 どうすれば。
 
「てなわけで。じゃーね、お疲れ様でしたー」

 気がつくと晴恵は工房の外に追い出されていた。
 晴恵はトボトボと商店街に向かって歩き出した。

「惚れさせるって、どうすればいいのよう……」

 晴恵に恋愛用スキルはない。

「中身がダメなら色仕掛け……、それこそ無理」

 中肉中背。顔は普通すぎて、インパクトに薄い。

 妹のように、会う人誰もを好きにさせる魅力はない。
 得意なことは、疲れたり辛い思いをしている客の足の手入れだけ。
 晴恵は口説かれたことなど一度もない。

「第一、私にそんな魅力があれば店長(あのひと)だって」

 いいかけて、晴恵は言葉を飲み込んだ。
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