王室御用達の靴屋は彼女の足元にひざまづく
 子供の頃から足のトラブルに悩まされている陽菜の負担を軽くしてやりたくて、晴恵はフス・フレーゲ(ドイツで発展したフットケア)を仕事にした。

 いつもは陽菜を晴恵が担当している。
 ところが晴恵に急遽指名客が入り、店長のフリッツが妹をケアしてくれた。
 誰にでも穏やかなフリッツが陽菜にだけは情熱を示した。
 妹もハンサムで包容力のあるフリッツに惹かれた。

 晴恵より一歳下であるフリッツと、八歳下の陽菜は自分から見てもお似合いのカップルだ。
 

 ……晴恵は頭を振って仲良しの恋人達のことを追い出した。今、考えるべきは檜山の攻略法である。
 あてもなく商店街へ向かううち、晴恵のお腹がくう……と鳴った。

「そうだ、あの人もお腹空いてるんじゃない?」

 職人にありがちな、作業に没頭して食べることをおろそかにしがちなタイプではないだろうか。
 着ていたシャツやズボンが上質なものでありながら、手入れのしてなさそうな髪は靴作り以外のことを気にしていないように思われた。
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