ライム〜あの日の先へ
靴裏に溶けたキャンディが付いてしまった。歩くたびにベタつく。
不快さをこらえ、落ちたスマホを拾った。画面が真っ暗のまま、立ち上がらない。どうやら、故障してしまったようだ。
しかも、手にとって違和感を覚える。
つけていた鈴がない。落とした衝撃でどこかに行ってしまった。あたりを探してみるが、小さな鈴はどこにも見当たらない。

おそらく車道に転がっていってしまったのだろう。
トラックなどの大型車の往来も激しい車道を見て、絶望感を覚えた。


……なくなっちゃった。おそろいだったのに。
鈴が鳴るたびに彼を思い出して、元気でいることを願ってきたのに。


でも。


彼はきっと鈴子のことなど思い出すこともないだろう。今も憧れの女性を口説き落とすことしか頭にないはず。

それで、いい。
私は彼の人生に何も与えることはできないのだもの。


だからこのまま。何も知らないまま。
それが、きっとあなたの幸せだと思うから。


だからどうか。
たとえ私を思い出しても。
何があっても。


もう、会わない。



あなたと私の人生は、もう二度と重なることはないのだから。

私は一生、あなたの面影を探して生きていくから。



鈴子はビルに背を向けて、ゆっくりと歩き出した。



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