ライム〜あの日の先へ
「なぁ琴羽、鈴子のことなんだけど……」

零次にしては珍しく歯切れの悪い切り出し方だった。
聞きたいけど聞きたくない。そんな気持ちが見え隠れしている。

ーー相変わらず、わかりやすい人。

琴羽は心のなかでつぶやいた。

二人の間には何かがあったのだろう。
だからこそ、慎重にならなくてはならない。

現在プリスクールの経営には携わっていないとはいえ、人事に関する情報は琴羽の頭に入っていた。鈴子の経歴も、家族構成も。

「先生とお知り合いだなんて、驚いたわ。世間って案外狭いものね」
「鈴子は親友の妹。小さい頃から知ってるんだ。いつの間にか結婚してお母さんになってたんだなぁ。
学生の頃はCAになりたいって言ってたのに、まさかハルトのプリスクールの先生だなんて。驚いたよ」

そのセリフから、零次がいまの鈴子の状況を全く把握していないことを知る。
琴羽はさらに続けた。

「凛ちゃんが喘息だって聞いていたけれど、このままでは仕事にも支障をきたしかねないわよね。なんとか手を打たないと」
「辞めさせるつもり?」
「それは、絶対ない。
先生、すごく真面目で優しくて明るくて評判がいいのよ」
「そうか……変わってないんだな」

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