ライム〜あの日の先へ

交錯する関係 一成

琴羽は仕事があるからと帰っていった。

零次と一成は小児病棟のデイルームの自動販売機で紙コップのコーヒーを買い、向かい合わせに座った。

入院患者が面会に来た家族と嬉しそうに話をしていたり、設置された大型テレビを見に来たりと、ざわついている空間は二人で大事な話をするのに適した空間とはいえなかった。

それでも三年ぶりに親友と話ができるだけでよかった。



「元気そうだな」

目の前に置いたコーヒーを一口飲んで、零次はそう口火を切った。

「おかげさまで」
「一成は今、何をしているんだ?」
「コンサルティングファームに転職しました」
「コンサルか。さすがだな。一成にはぴったりだ」


大人ぶってブラックのコーヒーを飲んで、その苦さに二人で吹き出した。
芳香が立ち上るコーヒーを見て、一成はそんな子供時代を思い出していた。

両親の事件がきっかけで、鈴子の為に早く大人になりたいとずっと思っていた。
鈴子を守ることが昔も今も変わらず、一成にとって生きる理由だ。
頼れる大人には巡り会えず、被害者と加害者両方の子どもとして後ろ指をさされて生きてきた。
本来注がれるべき親の愛情は自分たちにはない。

信じられるのはお互いと、目の前にいるこの親友だけだった。

「五嶋商事も業績が右肩上がり。さすがです」
「まぁ、今は一条が強力バックアップしてくれてるからな。本当の勝負はこれからだ」

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