ライム〜あの日の先へ
目が覚めて飛び込んできたのは、見慣れた自分の部屋の白い壁紙だった。部屋は真っ暗だが、ドアの下の隙間から灯りがわずかにもれ、凛の笑い声が聞こえてくる。
どこからが夢で、どこからが現実だったのだろう。
時計を見れば夜の10時を回っている。さすがに凛は寝かせなければ。
「あ、ママ、おきた!おねつだいじょうぶ?」
部屋を出るとキッチンからパジャマ姿の凛が鈴子に駆け寄ってきた。
「うん。だいぶ楽になった。凛は?ご飯食べた?お風呂は?」
「ごはんもたべたし、おふろもはいったよ!いま、ライムジュースつくってるの!」
「起きたか鈴子、体調はどうだ?おかゆでも食べないか?」
エプロン姿の一成がキッチンから顔を出す。
「うん、食べる。ごめんね、おにい、迷惑かけて」
「凛に聞いたけど、今朝は車に雨水ひっかけられて、午後は雨の中駐車場で誘導だって?そりゃあ風邪も引く。ご苦労さん。
さっき、水上さんが薬を届けてくれたんだ。おかゆ食べたら薬を飲んでまた寝て」
いつもと変わらない日常。やはり、零次のことは熱にうなされて見た都合のいい夢だったのかもしれない。