ライム〜あの日の先へ
あたりはライムの香りなど勝てないほどにムッとした血のにおいで充満している。

母がお気に入りの白い大理石の床に赤い血溜まりが広がっていた。


「ライムは鈴子が持ってて」

ライムを持っていれば、においも気にならないかもしれない。
一成は目の前の惨状が鈴子の記憶に残らないように、小さな体を抱きしめて視界を遮った。


母が父を包丁で刺し、さらにその包丁で自分を刺した。
それが一成の目の前で起こった凶行の全てだ。


これまで会社社長の父と専業主婦の母のおかげで何不自由ない生活を送ってきた。



だが、この時を境に一成と鈴子が生きる環境は一転する。



動き出した時間は、まだ小学校四年生だった一成と二歳の鈴子には残酷すぎる現実だった。





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