ライム〜あの日の先へ
「さ、凛、私達も帰る支度だね」

ハルトを見送ると、鈴子は凛の帽子を被せようと手に取った。

「ハルトくん、いいなぁ。パパとごはんだって。
ママ、りんのパパはいつかえってくるの?」

凛が元気なくしょぼんとした様子でつぶやく。

最近、妙にパパという存在を欲しがる。これには鈴子も困惑していた。
凛には決してつらい思いや悲しい思いをさせないと決めているのに。

「凛が思うパパってどんな人?」
「サナちゃんのパパは、サナちゃんのことかたぐるましてくれるんだって。シュンくんのパパは、どうぶつえんつれてってくれるんだって」

「ママだって凛のこと、肩車するよ。今度、動物園にも行こう」
「ほんと!?りん、ゾウさんみたいなー、ライオンに、パンダも!」

嬉しそうにしがみついてきた凛をふわりと抱き上げる。

ーーあぁ、こんなふうに笑った顔は、彼にそっくりだ。

ふとした瞬間に、彼を思い出す。

元気だろうか。意中の女性とは上手くいっているのだろうか。
鈴子のことを思い出したりするのだろうか。



ーーないだろうな。



彼の存在はいつでも鈴子の支えだ。彼の面影を強く残す凛に愛情を注ぐことで、彼のことを忘れずにいられる。
でも彼はきっと、鈴子のことなど思い出すこともないだろう。
彼は、若い実業家として脚光を浴びる人。鈴子とは、重なることない世界に住む人。

in the limelight.
彼が教えてくれた言葉そのままの人生を歩んでいるのだから。
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