ライム〜あの日の先へ
流線形の飛行機が大空へ飛び立つ姿が、涙でぼやける。
鈴子は見学デッキで零次の乗った飛行機を見つめていた。

「鈴子」

思いもかけず名前を呼ばれ、振り返った。

「おにい」

この時間なら仕事中の一成が、スーツ姿のままそこにいた。

「零次の見送りに来たんだけど、間に合わなかった」

それは優しいウソだった。実は、一成はずっと前から空港に着いていた。
鈴子と零次が別れを惜しんでいる姿を見つけ、声をかけるのを遠慮していたのだった。

タイミングよく現れた一成の姿に、鈴子も兄の優しいウソに気づく。

「きちんとお別れした。笑顔で見送れた。
これでおしまい。
おにい、心配かけてごめんね」

ぽろぽろとこぼれる涙を服の袖で押さえながら、鈴子は飛行機に背を向けた。

「そうか。
少しくらいわがままになって、零次についていくことも想定してたけど」

「それは絶対ない。
零次くんは五嶋商事の御曹司で次期社長。私とは生きる世界が違う。
こんな私に一週間、夢を見せてくれた。それだけ。第一、零次くんは一条の御令嬢が好きなんだよ?」

「鈴子」

一成は痛々しいくらいの妹の背中に声をかける。優しく、包み込むような一成の声に、鈴子の感情が抑えられなくなった。

「おにい……」

兄の胸に飛び込むと、周囲の目も気にせず鈴子は泣きじゃくった。
いつもと変わらない兄の優しさに、理性が吹き飛んでしまった。

一成はそんな鈴子の背中を幼子をあやすように静かに優しくさすってくれる。
すると、嵐の吹き荒れた鈴子の胸のざわめきが不思議と凪いでいく。

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