社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 ちょっと迷ったあとで、千景は口を開いた。

「あの、実は真実さんと話してると、何故かいつも、八十島さんの話になるんですよね」

「は?」

「真実さん、八十島さんにもよくメッセージ送ったりしてるみたいなんですけど。

 最近の真実さんは、八十島さんと話すために社長の話してるみたいな感じがあって。

 いつの間にか目的が逆になってるっていうか」

「……いつの間にそんな展開になってたんだ」

「真実さん、八十島さんが好きなんですかね?
 社長とは結局、会えてないですし。

 まあ、八十島さん、格好いいですもんね。

 社長が真実さんをお好きとか言うのでないのなら、真実さんを応援したいんですけど。

 八十島さんの話をする真実さん、ほんとに可愛くて。

 あ、でも、本人はまだ自分の気持ちに、あんまり気づいてないみたいなんですけど……」

 そのあとも、千景は、まだなにか話していたのだが。

『まあ、八十島さん、格好いいですもんね』の一言が頭にこびりついて、他の話はまったく耳に入ってこなかった。


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