社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
その頃、用事で出ていた八十島は広い歩道を歩いていた。
……つけられている。
誰かに。
いや、誰かってあの人しかいないのだが、と思いながら、赤になった横断歩道で足を止めた。
千景と将臣の結婚式では可愛らしく着飾ってきていて。
「素敵ですわね。
海の見える結婚式場のチャペルで挙式っ。
でも、私は緑に囲まれた神社での挙式が憧れですわっ。
八十島様はどちらがよろしいですかっ?」
といきなり訊いてきた。
……何故、俺に訊く、と思い出しながら、振り返る。
真後ろに真実が立っていて、ひっ、と思った。
まさに、
『私、あなたの後ろにいるわ……』
という都市伝説の最後のようだった。
「あ、あの、八十島様……」
と俯きがちに言ってくる真実を冷ややかに見下ろし、
「なんですか?」
と強めに言うと、真実は身を縮めた。
一応、このストーカー行為を悪いとは思っているようだった。