社長っ、このタクシーは譲れませんっ!
 



「それでは、この春、社長に就任されました戸塚将臣から皆様にご挨拶を」

 100周年イベントのその日。

 編纂のみんなは会場横にピラミッドのように積み上げられ、飾られている社史の横にいた。

 登壇する将臣を見ながら、
「あー、もうほんとに最後なんですね、編纂室」
と千景は呟く。

 もう半地下の片付けは終わり、それぞれ、新しい部署に行く時間の方が長くなっていた。

 明日にはもう、半地下はただの倉庫に戻る。

 ここへ来る前、半地下の電気を消したときには、なんだか涙が出そうになった。

 今、坂巻も横で涙ぐんでいる。

 坂巻は律子と同じ、総務に行くことになっていた。

「総務は結構社内を回るから、営業にも行けますね」
と武者小路に言っていたが。

 一緒に走ったりしているとはいっても、今までみたいに常に一緒というわけにはいかなくなるので、少し寂しいようだった。

 だが、そのうち、プライベートでも長く一緒に過ごすようになるのではないかな、と千景は思っている。
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