手を伸ばした先にいるのは誰ですか
目を閉じたまま浅い呼吸で胸を上下させる美鳥が声を絞り出す。
「…朱…鷺」
聞かない…聞きたくない。しかしこの世で一番大切な存在である美鳥の声を無視することは出来ない。美鳥に俺にしか吐き出せない思いを抱えさせたのは俺自身だから受け止めて一緒に消化してやらないといけないんだ。
「うん?」
汗ばむ体と体を隙間なく絡め合わせて彼女の髪を撫でる。
「やっぱり…朱鷺は優しい…聞いてくれるんだ」
「美鳥と全てを共有して美鳥が憂いに沈むことのないようにするから」
「…憂いに沈む…私が最近マスターした日本語だ…ふふっ」
「実用するのが大事。で?」
「うん…真面目に真剣に本気で懸命に考えたの」
「ふっ…類義語をたくさん並べられたな。何を考えた?」
「about love…」
結婚についてじゃないのか?
「こういう時に漢字の素晴らしさを感じるわ」
「loveを漢字?」
「恋愛って漢字で考えたの」
どちらにしても頭で考えることでないだろ?やっぱりろくでもないことだろうと予測がつき身構えたことを悟られないよう美鳥ごと仰向けになると、彼女は俺の上でうつ伏せの体から頭だけを上げて俺を見上げる。
「どちらの漢字にも‘心’がついてるのよ」
「そうだな」
身構えはしたが、彼女の考えたことをゆっくりと聞くことも美鳥が小さな頃から何百回、何千回と繰り返してきたことだ。